3.環境

どんな環境にも対応できる潜在能力があります

●狼は酷寒から灼熱まで柔軟に順応できるシステムがあるのです

犬の先祖はタイリクオオカミ。先祖といってもごく近い親戚です。タイリクオオカミは過酷な風土で生活をしている動物です。例えばシベリアオオカミ(犬の原種とされるタイリクオオカミの亜種)がすむシベリアの冬はマイナス40度を超し(記録ではマイナス73度)、夏は30度を超えるという寒暖の厳しい環境でくらしています。この悪条件を生き抜く順応力は人間では考えられない能力です。この能力を支えているのが寒暖に順応するための高度な温度調整機能です。

寒さに対しては身体を内部から暖める褐色脂肪組織といわれる器官が発達していて機敏に対応しています。この褐色脂肪組織で血液を急速に暖め、血管を通じて全身を暖めるのです。犬は長距離ランナーですから毛細血管がきわめて発達していて、瞬時に細部まで暖めることができるのです。水鳥が低温の沼に素足で何時間でもいられるのと同じ原理です。マイナス70度にも耐えられるのは、厚い毛皮があるからだけではないのです。ちなみに人間が狼と同じ毛皮をまとったとしても耐えられものではありません。この能力があるため、凍りが張る酷寒の水中にも難なく入れるのです。

犬の驚異的な能力を証明する出来事が、半世紀前にありました。南極物語のタロとジロは地球上で最も厳寒な冬を、自ら食料を得て生きぬいてきました。この事実からも耐寒の潜在能力は驚異的といえるのです。

シベリアの夏は高緯度でありながら典型的な大陸性気候のため、30度を超える高温になります。狼はこの高温に順応するため、複合したシステムで対応しています。ひとつは、身体中に張り巡らされた毛細血管網を介して、血液で身体の内部から熱を回収するシステムです。エンジンでいえば血液が冷却水で舌がラジエーターに相当します。エンジンはシリンダーしか冷却しませんが、狼は体全体の熱を回収しているのです。もうひとつが柔らかくて高密度のアンダーコート(冬毛)を一気に脱毛して、太いトップコート(夏毛)だけになることで、有害な紫外線を遮断するとともに、通気性を高めて放熱を促進させる機能です。これら高度の温度調整機能は、当然犬にも備わっているのです。



狼と同様に犬にもどんな環境にも対応できる潜在能力があるのです

 

ほとんどの犬は温度調整機能が働いていません

●温度調整機能がひと並みに低下して熱さ寒さに弱くなってます

かわいいトイ系も超大型のグレートデンも狼と同様に高度の温度調整機能を本来持っているのですが、残念ながらほとんどの犬は、これらの機能を封印した状態にあるのです。冬になるとヒーター付きカーペットから離れられななくなったり、散歩に連れ出そうとしても嫌がる…真夏になると外出を嫌い、エアコンのきいた部屋から出ようとしない…おたく系少年の話ではありません。犬の身体がひと化しているです。これは本来持っている温度調整機能が充分に働かない結果の現象なのです。

 人間と犬では身体構造から来る生活環境に大きな違いがあるのですが、この違いを認識することなく同居したことに大きな原因があるのです。

●人間の住環境に合わせられた結果、犬は温度調整機能を停止させたのです

人間の先祖は寒暖差の厳しい自然環境への対応を身体の機構ではなく、家屋や被服により克服する方法を選択しました。そのため被毛は消滅して、身体を暖める器官である褐色脂肪組織も限定的なものになってしまいました。家屋の中では冷暖房、外では被服という身体以外の方法で、調整しなければならないようになったのです。一方、犬の先祖は厳しい自然環境を克服するため身体構造の高機能化を選択した結果、暖房器具に相当する褐色脂肪組織を高度に発達させるとともに、被毛は季節に合わせて臨機に着脱が可能になったのです。

人間の住環境は、少しでも暑くなれば冷房、逆に涼しくなれば暖房をする環境です。この環境で犬がくらしていると環境に合わせる生理的特性から、褐色脂肪組織は機能を停止して、被毛は季節ではなく屋内の環境に合わせるようになります。この生活を続けると犬の持つ高度な温度調整の機能は失われてしまいまい、犬の身体はひと化してしまうのです。犬の精神的なひと化は推奨しますが、身体のひと化は多くの弊害を発生させる元凶ですから厳禁なのです。

愛犬のためを思って「少しでも暑くなれば冷房、寒くなればすぐ暖房を入れる」犬に優しい思いやりだと思ってはいませんか。この行為は高度な温度調整の機能を剥奪することになりますから、犬にとっては虐待に相当する行為になるのです。また、犬のサマーカットが流行っていますがお薦めできません。日傘の役目をするトップコートがなくなると有害な紫外線に弱くなるからです。



犬は真夏の暑さにも対応できる能力を秘めているのです

●温度調整機構を封印させてしまうと大きな弊害が発生します

○褐色脂肪組織が縮小して休眠状態になります
脂肪を大量に燃焼してくれる貴重な器官である褐色脂肪組織を使わないと、褐色脂肪組織自体が減少するとともに機能が大幅に低下してしまいます。

脂肪を直接燃焼する最大の器官が機能しないことは肥満体質になることを意味しているのです。一般的なドッグフードは簡単に脂肪に合成されるデンプン質が主体ですから、褐色脂肪組織を活性化させておかないと確実に肥満してしまうのです。

○季節に合わせた皮毛の調整サイクルが不規則になります
犬は季節の温度変化に応じて皮毛を調整していますが、温度調整機能が働かないと1年中保温用のアンダーコートを生成し続けてしまうことになります。夏になってもアンダーコートが多く残存していますから日中の外出を嫌い、家にいても熱中症状にかかりやすくなってしまいます。冬でもアンダーコートを頻繁に脱毛させますから充分な量の確保ができず、寒い日の散歩を嫌うようになります。皮膚への温度刺激が激減する結果、皮膚も極端に弱くなってしまうのです。

○毛細血管ネットワークの規模が縮小してしまいます
温度調整に深く関わっているのが毛細血管で、冷やしたり暖めた血液を体全体に配付する役目ですが、他に重要な役割も担っています。運動に欠かせないエネルギーや酸素を運び、細胞代謝に必要な栄養素も運ぶ生命活動にとって要となる役割です。

毛細血管の機能を充分に活用化させておかないと、毛細血管のネットワーク規模が縮小してしまいます。縮小すれば機能も低下して細胞代謝も不充分となり、古い細胞が残されますから癌にかかる確率が高くなったり、怪我や病気のなおりが悪くなるなど、免疫力の低下につながり、持久力もなくなってしまうのです。



狸は犬と同じ肉食目の祖先から別れたのが700万年前。狸が雑食になるために気の遠くなるような時間を要しているのです

 

どんな犬でも温度調整機能を復活できるのです

●一定の順応期間付与で温度調整機能は活性化します

 犬の温度調整機能を活性化させるには、狼と同じ環境に近い屋外で飼えば良いのですが、問題は室内飼いの犬たちです。快適なくらしに馴れた人間が、犬本来の環境にに合わせるのは無理があります。冬はペンギン、夏はラクダとくらすようなものだからです。基本的な身体機構が違う人間にとって、犬の環境に同調することはできませんが、季節の変わり目に一定の順応期間を与えることができれば、犬は温度調整機能を活性化させることができるのです。

●冬に向けての順応方法

冬季の温度調整で最も活躍する器官は褐色脂肪組織です。この褐色脂肪組織を活性化させるには、晩秋から初冬にかけての時期が重要になります。この時期は徐々に低下して行く気温に順応させることで、褐色脂肪組織が活性化され始めるからです。夏が終わり快適な秋を過ごし、涼しくなってきた時期から真冬の気温の80パーセントまで低下する時期が順応期間になります。順応のポイントは室温をできるだけ外気の気温に近付けることです。

●夏に向けての順応方法

夏季の温度調整で重要なことは防寒用のアンダーコート(綿毛)を衣替えのように、確実に脱毛する生理機能を活性化させることです。この生理機能を活性化させるためには、春の終わりから夏の初めまでまでの間、上昇する気温に身体を順応させさせることが重要なポイントになります。

北の野生動物がぼろ切れをまとったような、まだら模様になった映像を見たことがあると思います。一見みすぼらしい姿に見えますが、真夏へ対応するため一気に脱毛した冬のアンダーコートが一時的に表面に残っている様子で、じきにすべてがとれます。まさに野生動物の衣替えなのです。犬も同じ生理機能があるのですが、ほとんどの犬は封印状態になっているため夏の熱さに弱く、室内にいても熱中症にかかってしまうのです。

 

温度調整機能が活性化すると多くのメリットが発生

●肥満しない体質になり、生活習慣病の予防に寄与します

温度調整が充分に機能するようになると、冬季の温度調整で重要な役割を果たしている褐色脂肪組織は、夏でも働き続けるようになります。褐色脂肪組織のエネルギー源は脂肪ですから、1年中大量の脂肪を消費します。そのため、肥満になりずらい体質になるのです。取り入れた脂肪を大量に燃焼してしまうため蓄積されないからです。

犬の死亡原因の主体は生活習慣病で、克服できれば犬の寿命は大幅に伸びると思われています。生活習慣病の大きな要因である肥満を防ぐ、最も有効な手段が温度調整機能の要となる、褐色脂肪組織の常時活性化なのです。

●犬と同居する最大の悩み抜け毛の被害が激減します

犬とくらすと抜け毛の弊害は当然と思われていませんか。温度調整機能が活性化すれば、抜け毛の量ほとんど気にならない程度に低減できるのです。抜け毛の正体はアンダーコート(冬毛)で、この細く柔らかい毛が犬アレルギーの原因のひとつです。毛が大量に抜ける原因は犬の温度調整機能が不活性だと、自然ではなく住まいの気温に過敏に反応する結果、アンダーコートの増産と脱毛を1年中くり返してしまうからです。

温度調整機能が活性化した犬は冬季に限定して、アンダーコートをしっかりと固定して生やします。また、寒さの穏やかな日本では、褐色脂肪組織の働きによりアンンダーコートの生産量が少なくて済みます。したがって、ぬけずらいアンダーコートを冬季限定で少量しか生産しませんから抜け毛も激減するのです。

抜け毛の量は犬種や個体差により違いはありますが10分の1以下に減少しますから、無視とまではいきませんが気にならない程度の量になります。

●暑さ寒さに強くなり、基礎体力が大幅に向上します

冬に「雪が降ると犬は喜ぶ」は犬本来の姿なのです。氷の張りつめた湖で割れ目に落ちたひとを救う、レスキュードッグの映像を見て寒そうに思いませんか。実は寒くないのです。温度調整機能が活性化していると、体内に強力なヒーターを装備していることになりますから、どんなに寒くても身体は暖かいのです。

夏も温度調整機能が活性化していれば冬のアンダーコートをすべて脱いでしまうため、暑さの厳しい日中でも全力で走ったり、元気に遊ぶことができるのです。

寒さにも暑さにも強くなるため、1年中運動をすることが可能となり、心肺機能から消化器系まで強化され、細胞代謝も正常化しますから、基礎体力が大幅に向上するのです。基礎体力が向上すれば免疫力も向上して病気知らずの健康な身体になり、長寿へと向かうのです。

 

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